大企業では何億もかけてシステムの導入をし、改革を起こせるかもしれませんが、中小・ベンチャー企業では同様のことはできません。それでは中小・ベンチャー企業はどのようにバックオフィスの改革をおこなえばいいのでしょうか。 今回は、中小・ベンチャー企業が取り組むべきことを、2017年9月21日(木)に開催された、「カンファレンス2030年の創造的バックオフィス」のイベントレポートとして、ご紹介します。 freee株式会社 取締役COO 東後澄人さん
社員400人を支えるfreee株式会社のバックオフィス体制は、経理0.8人・人事労務0.5人
2030年までに114万人の営業販売員が増加し、143万人のバックオフィス要員が減少すると言われています(2030年展望と改革 タスクフォース報告書 (参考資料集) – 内閣府より)。
社員400人を支えるfreee株式会社のバックオフィス体制は、経理0.8人・人事労務0.5人スモールビジネスが未来のバックオフィス実現に向けて進むべき、3つのステップ【第2部】数値の管理から経営の意思決定をサポートできるバックオフィスへ(ラクスル株式会社 経営管理部 部長 西田真之介さん)経営判断ができるように問題を一つずつ解決バックオフィスと相性がいいのはRPA。オペレーション業務はどんどん減っていく第3部:パネルディスカッション(ソウルドアウト株式会社 執行役員 長澤一雅、GMOペパボ株式会社 執行役員 名和俊輔さん)事業側と管理部門側でのコミュニケーションはどうしているか?業務改善でまずはここから始めるということは何か?今後のバックオフィスパーソンとしてどんなキャリアを作っていくのがいいのか?最新のテクノロジーや2030年の創造的なバックオフィスについてまとめ
クラウド会計ソフトを販売しているfreee株式会社 には400名の社員がいますが、経理の実務を担当しているのは0.8人、人事労務の実務を担当しているのは、わずか0.5人。2012年に設立し、わずか5年間で企業は大きく成長していますが、すでにバックオフィスのルーチン業務にあてる人数は削減しています。 そんなfreee株式会社の管理部門のチームは、経営ナビゲーターチームとメンバーサクセスチームの2つに分かれています。ただ業務を効率化するのではなく、バックオフィスの仕事内容を創造的な仕事に変えてきました。
①経営ナビゲーターチーム 全7人
・一般的に言うと経理部門にあたる ・ルーチンの経理業務には月0.8人をあてる ・経営の意思決定のサポートができる状態を目指す 【具体的な施策】 ・データを分析し、マーケティングや投資のシュミレーションを作成。 ・事業が1年の中でもピーク時の統計を分析し、次の年の採用や人員配置の意思決定につなげる。 ・カスタマーサポートへの問い合わせ数が多い時間を分析して、適切な人員を配置。
②メンバーサクセスチーム 全8人
・一般的に言うと人事・総務・管理部門にあたる ・社内のメンバーがどれだけ成長するか、社員の成長が企業の成功にどれだけつながるか、が重要。 ・どうしたらもっと社内の結びつきを強くできるか、もう一段回上の文化にいけるかを考えている。 【具体的な施策】 ・行動規範を社内に浸透させていく ほとんどの社員が行動規範を理解し、語れる。 ・行動規範を広げるために、独立した価値基準委員会を設立。 ボトムアップで企業の文化を確立するようにしている。 来客用の水をつくったり、社内で夕食のお弁当を食べれるようにしたり、オリジナルのTシャツを無料で着れるようにしたり、一見余力がないとできなさそうなことに時間を使い、社内の結びつきを強くしているようです。
スモールビジネスが未来のバックオフィス実現に向けて進むべき、3つのステップ
それでは具体的に中小・ベンチャー企業のバックオフィスは、未来のためにどういうことをしていけばいいのでしょうか?東後さんは、下記の3つのステップを確実に進んでいくことが重要、と言います。 ①クラウド完結 ②ERP ③人工知能 それぞれのステップを詳しく見てみましょう。
ステップ1:クラウド完結
まずはすべてのことをクラウドで完結できるような状態を目指します。例えば、よくある問題として、紙の書類が多く管理が煩雑になってしまう、部署ごとに秘伝のExcelがあるが使いこなせない、横展できない、といったことがあると思います。 このような「紙やExcelをどうしたら減らせるか?を考える必要がある」と東後さんは言います。また、バックオフィスの場合は、人事労務に関する行政の窓口が複数あるため、担当者はすべての窓口を自転車で駆け回っていることもあります。 しかしいまは、あらゆるものがクラウドでつながる時代。クラウド上でデータを管理することで、紙やExcelを減らせます。金融機関、クレジット、決済サービス、行政機関ともクラウドでつなげられ、行政の窓口をすべて自転車でまわるという問題も解決します。 99%ではなく、すべてのものがクラウド上で管理されるようになると、驚くほど業務が効率化するそうです。freee株式会社でもクラウド完結は徹底しておこない、社員が400名いても、コピー機は1台で十分に足りているようです。
ステップ2:ERP
2つ目に取り組むべきことは、ERP。ERPは、予算管理や販売管理などの企業経営に必要なシステムをオールインワンで提供しています。そのため、すべての情報を一元管理できるというメリットがあります。 ステップ1でクラウド完結が実現したら、次はできるだけ1つのツールの中での完結を目指します。そうすることで、同じ入力作業を何度もしなければならない、というよくある課題を解決できます。
ステップ3:人工知能
3つ目に取り組むべきことは、人工知能の活用。いきなり活用しようとしても難しいので、ステップ1と2にしっかり取り組むことが重要です。 人工知能は得意な分野と苦手な分野があり、 ・得意な分野 目的が明確なこと、学習を重ねた未来の予測 ・苦手な分野 コミュニケーションや共感を生むこと。目的をはっきりさせること そのため、「作業はAIに代わってやってもらい、ビジョンの策定など意志が必要な部分は人間が担う時代がやってくる」と、東後さんは言います。
【第2部】数値の管理から経営の意思決定をサポートできるバックオフィスへ(ラクスル株式会社 経営管理部 部長 西田真之介さん)
ラクスル株式会社 経営管理部 部長 西田真之介さん
経営判断ができるように問題を一つずつ解決
2014年にラクスル株式会社に入社された西田さん。当時は、稟議は紙で管理しているが、決裁がとれてもどこに格納されているか分からず、意思決定や経営判断に関することは、できていない状態だったと言います。 そこから、経営判断をサポートできるバックオフィスになるために、2段階に分けて施策を実施していきました。 まずは、データの分析すらできない状態の解決に着手しました。例えば、取引社数をExcelでダウンロードするのに何時間もかかってしまうという問題を、まずは分析できる状態に整理したうえで、意思決定にかかわるサポートへとステップアップしていきました。 「急に経営判断ができるようになるのは難しい。一つずつ問題を解決していくのが重要」と西田さんは言います。 課題を設定し、実際にアクションをおこして、財務会計のクオリティを上げていく、という流れを繰り返したことで、徐々に問題は改善されました。 目標に対して何らかの数値が変動したときに、もう少し踏み込んで行動するか、会計ではどんな影響があるのか、費用を削るべきなのか、などを判断できるようになっているそうです。
経営判断をサポートする体制
・経営管理 定性的な情報からのサポート 法律や、社員の元気がない、といった数値でははかれない定性的な情報を読み解く。 ・事業管理 定量的な情報からのサポート 目標に対して、何%達成できているか、などの数値から意志決定をサポート。
バックオフィスと相性がいいのはRPA。オペレーション業務はどんどん減っていく
RPA(ロボットが業務プロセスを自動化すること)は手順が決まっている定型作業ならば、自動で処理が可能なため、バックオフィスの業務と相性がいいと言われています。 例えば各取引先から送られてくる異なるフォーマットのExcelを加工し、報告できる状態に整えるという業務も、RPAで自動化できます。RPAを活用すれば、それまで数時間単位でかかっていた作業も、メールを受け取ってから報告書のフォーマットに整えるまで1~2分で終了。ラクスル株式会社でもRPAは少しずつ取り入れているそうです。 「RPAやAIの活用によってオペレーションは減り、日常業務はなくなる。業務のプロセス管理に強い人、より専門性の高い人を育成するなど、バックオフィスの業務がより創造的になるように研究していく必要がある」と西田さんは言います。
第3部:パネルディスカッション(ソウルドアウト株式会社 執行役員 長澤一雅、GMOペパボ株式会社 執行役員 名和俊輔さん)
第3部はfreee株式会社の東後さん(司会進行)、ソウルドアウト株式会社執行役員 長澤一雅、GMOペパボ株式会社執行役員 名和俊輔さんによるパネルディスカッションでした。来場者からの事前のアンケートをもとに、希望の多かった項目を長澤、名和さんに質問しています。
事業側と管理部門側でのコミュニケーションはどうしているか?
ソウルドアウト株式会社 執行役員 長澤一雅 長澤:最近は、事業側から相談にきてくれることが多いです。ただ最初から事業側とうまくコミュニケーションがとれていたわけではありません。 弊社はもともと親会社オプトホールディングに管理部門の業務を委託していたこともあり、私が入社してからIT部門と経理部門を新たに立ち上げました。当時は事業側の方たちのみで新しい商品の企画・販売がはじまってしまうこともありました。 なんとかせねばと思い、「商品企画コミッティー」という委員会を立ち上げます。IT、経理、法務、仕入れの責任者、販売したいものがある営業担当者が参加して、何か新しく販売したいものがあったら、まずはこの委員会に出席してくださいね、というようにしました。全社のプロジェクトとして進められたこともあり、1年ほど続けた結果、事業側から相談にきてくれるようになりました。 GMOペパボ株式会社 執行役員 名和俊輔さん 名和さん:事業側とコミュニケーションをうまくとるためのポイントは、予算統制と知的好奇心だと考えます。 まず、予算統制が大事だと考えるのは、事業部の方と話していて、本当に会計をよくわかっているな、と感じたことがきっかけです。事業部が会計をよく理解しているのは、会計が事業部の業績評価に大きく関わるからだと思います。つまり、PL上の収支の金額は、事業部の評価につながっており、事業部と経理は必然的にコミュニケーションを取ることになります。 会社がどういう方向に向かっていて、それを実現するためにどのようなことが自分の評価基準になるべきかを、きちんと繋げてあげることが重要であり、そういう意味では、目標管理をきちんとすることは非常に大切なのではないかと感じます。 また、知的好奇心という側面では、事業部も管理部門もお互いのことをもっと知りたいという関係性ができているため、いい関係を築いていると思います。例えば、最近エンジニアの方が「ビットコインを会社で持った場合、どのような会計処理になりますか?」と質問してきました。そういうことに常に興味を持つことは、すごく大事だと思います。 私たちもエンジニアの方の仕事が気になりますし、反対に管理部からの発信としては、法務がニュースレターを発信したり、私も事業側の会議に時々参加したり、積極的にコミュニケーションを図るよう心掛けています。
業務改善でまずはここから始めるということは何か?
長澤:現状の課題を広くヒアリングして、改善のプロジェクトを立ち上げた経験があります。このとき、必ず押さえるべきポイントが3つあると考えていました。1つ目は全社のプロジェクトとして進めること、2つ目は現場を巻き込むこと、3つ目は効果が高く成功確率の高いものから取り組むことです。 3つのポイントの中でも、重要なのは、代表から声をかけてもらって、全社のプロジェクトにすることですね。 名和さん:すべてリセットしてしまう、という方法もあると思います。以前、弊社の幹部合宿で社長が「スーパーリセット」という取り組みを提案しました。弊社は創業して14年が経過しており、さまざまな部署で定型業務が雪だるま式に増えていました。そのため、「生産性向上を図るために、1回リセットしよう」という内容でした。 リセットするといっても全ての業務をやめるのではなく、まず全社的には毎日おこなっていた日報や定例会議、定期的に自動配信されるメールや、ビジネスチャットにおける不要なグループへの参加などをやめてみました。 では、経理部門では何ができるのかということですが、最初は一部の業務をアウトソーシングすることを考えました。もちろん、自分たち以外の人ができることをアウトソーシングすることは一つの前進かと思います。しかし、これは根本的な解決策とは言えません。したがって、ホワイトボードに全ての業務をフローチャートにして書いて整理してみました。 その結果、必要以上にダブルチェック・トリプルチェックがおこなわれていることに気付きました。一度立ち止まって、本当に必要なのか?と向き合うことはとても価値があることだと思います。
今後のバックオフィスパーソンとしてどんなキャリアを作っていくのがいいのか?
長澤:マネジメントに特化する人と、エンジニアに特化していく人の二極化になると思います。エンジニアの採用をしていると、コミュニケーション力が多少劣っていても、知識やいいアイディアをたくさん持っている人に出会います。 逆にエンジニアとしてはそこまでスキルが高くなくても、現場とエンジニアをつなげる力がある人もいます。どちらも魅力的だと思うので、これからは二極化していくと考えています。 名和さん:ルーチン業務から抜け出して、自分の価値を出せる人が重要だと考えます。経理の業務でいうと、仕訳などの定型業務は徐々に価値がなくなっていくでしょう。ただし、経理は会社で起きた事象を記録する役割であることから、過去の情報を最も定量的に把握し、それを分析し将来を予測できる存在だと考えます。 管理部門は黙々とやる人が多く、土台は「ミスを起こさないこと」が大前提ですが、これからは経営戦略に携わるバックオフィスとして、新たな付加価値を提案できる人ほど価値が上がるのではないかと思います。
最新のテクノロジーや2030年の創造的なバックオフィスについて
長澤:最新のテクノロジーでは、RPAは弊社でも導入をはじめているところです。クラウド型RPAサービスを活用して社内システムの自動化を進めています。また、最近大手のAI製品のAPIが安価で使えるようになったので、社内のITサポートへの活用を検証しているところです。 多様な働き方を推進するため、社内にとどまらずどんな環境でも仕事ができ、情報セキュリティも担保できるようにITインフラを整備しています。弊社は全国に拠点があるので、東京のオフィスだけ豪華にするわけにはいきません。地方の拠点もインフラ環境の心配なく、東京オフィスで仕事をするのと同じように、いつでもどこでも働ける仕組みを整えています。 名和さん:2030年に向けてバックオフィスは、やはり経営判断のサポートができるようになることが重要だと考えます。 ちなみに、会社としては、有機的成長を意識しています。個人がインプットとアウトプットをしっかりやらないと成長できないと考えているので、本を読んだり社外の活動に参加したりすることを積極的に推奨しています。 どういう軸で成長していくことが望ましいかというと、今後はまんべんなく理解しているオールラウンダーではなく、特有の分野に強く個人としての強みを持つ人が勝つ時代になると思います。 弊社ではストレングスファインダーという強みがわかるツールを活用しており、全メンバーにテストを受けてもらっています。個人がどんな強みを持っているか把握して、業務を最適化していくことは非常に重要だと考えます。
まとめ
いかがでしたか?中小・ベンチャー企業のバックオフィスを改革するために、まずは下記の点を意識してルーチン業務にあてる時間を減らしましょう。 ・クラウド上かつ、できるだけ1つのツールでデータを管理する ・自動化できる作業は、RPAやAIを用いて自動化 また、ルーチン業務を効率化して終わらせるのではなく、 ・経営判断をサポートするための分析や施策の実施 ・社内の結びつきを強くするための取り組み など、今後のバックオフィスは未来の創造的なことに使う時間を増やしていくことが重要でしょう。 今回のイベントを通して、中小・ベンチャー企業でも、最新のテクノロジーやツールの活用、事業側との連携を強めることでバックオフィスの改革を実現できると分かりました。